「ゆるゆり」ここに来てようやくブレイクの予感



 なもり氏原作で雑誌「コミック百合姫」(一迅社)で連載中のコミック『ゆるゆり』が、今期アニメ化されている。





 毎期見るべきアニメは、
1.期初にまとめ動画とテザーサイトをチェックして数個に絞り
2.その後1、2話見て更に絞りつつ
3.その後のブログ等での評価によって若干の追加調整を検討する
という、いわゆる3段階選抜法により選択するというのが、貴重な睡眠時間との厳しいトレードオフの中、深夜アニメを視聴するエリート社会人の一般的かつ合理的な方法論として確立されているところである。


 こうした選抜法の結果僕が選択した今期アニメ3作のうち1作が『ゆるゆり』だったわけだが、あにはからんや、当初の世評がちっともよろしくない。


 永年のこの萌え業界の観察者として、このジャンルにおけるマスにヒットする作品は大体予想がつき、大きく外れることはないだけに、当初の低調ぶりを不思議に感じてもいたのだが、どうやらここに来てようやくブレイクの兆しが見えてきたようだ。


 ニコニコ生放送におけるゆるゆり生放送への来場者とコメント数は、以下の通りとされており、『まどか☆マギカ』の実績値と比較すると、その伸び率と現時点での絶対数との双方の点で、まどか☆マギカを上回っていることが見て取れる。


ゆるゆり
 第1話 来場者数:18,560 / コメント数:27,283
 第2話 来場者数:16,075 / コメント数:36,794
 第3話 来場者数:14,980 / コメント数:47,418
 第4話 来場者数:19,709 / コメント数:73,049
 第5話 来場者数:33,383 / コメント数:118,015
 第6話 来場者数:40,622 / コメント数:123,704


まどか☆マギカ
 第1話 来場者数:23,888 / コメント数:32,423
 第2話 来場者数:19,153 / コメント数:20,507
 第3話 来場者数:24,897 / コメント数:35,843
 第4話 来場者数:24,424 / コメント数:36,883
 第5話 来場者数:26,261 / コメント数:36,342
 第6話 来場者数:25,962 / コメント数:41,635

ゆるゆりが“来る”と感じられる理由



 ゆるゆりが“来る”と感じられた理由は、これはもうこれまでの蓄積による総合判断と言うほかないのだが、敢えてそれを言語化して列記すると、例えば以下が挙げられるだろう。



 『ゆるゆり』は、似たような日常系ジャンルのヒット作である『けいおん』や『らき☆すた』との対比で、その特徴を語られてもよい。すると、上記のポイントは、『けいおん』や『らき☆すた』が等しく備えていた特徴でもあることに気づくだろう。


 『ゆるゆり』がこれらの要素をどのように満たしているかの指摘は、視聴している人には明らかであり、視聴していない人に説明するのは相当程度の文字数を要する結果、誰にとってもメリットがない記述になるので割愛するが、結論のみ言うと、『ゆるゆり』は、この手の作品としての王道を行っているということが、ここで指摘したいポイントである。


 なお、『けいおん』や『らき☆すた』を踏まえて指摘しておくべき個別の論点に若干言及すると、王道というべき作品は、主要キャラクターに売れ筋声優を起用して人気を取りに行く、というありがちな施策を講じない。むしろこれらの作品を出世作として声優を送り出す機能を果たす、という作品が本来あるべき姿を保っている。
 『ゆるゆり』についても、人気声優に乗っからない作品自体の強靭さを備えており、この点は評価できる点として指摘しておきたい。


追記1.あかり役の三上枝織のインタビュー記事はこちら
追記2.京子役の大坪由佳のインタビュー記事はこちら


 また、この手の作品のヒット作は必ずしも京都アニメーションからでなければ出てこないというわけではないことも指摘しておきたい。今期、京アニは『日常』を展開しており、僕も当初の視聴対象に入れていたが、こちらは既に絞り込みで切ってしまった。一般の市場はともかく、周囲で多額の金銭が動く萌え市場においては、『ゆるゆり』のほうが高評価を得ていく作品としてのポテンシャルは高いのではないかと見ている。この点は、後述するマーケティング戦略によっても左右されがちなため、検証は容易ではないが、今後の同人誌市場や秋葉原のグッズ市場、pixivでの画像アップの状況や原作者の人気の上昇度などの諸動向を注視していきたい。


 追記(9/2/2011)
 ゆるゆりを用いた販促にローソンが乗ってきた。ローソンによる販促は「けいおん!」「まどか☆マギカ」をはじめ、この手のコンテンツがクリティカルマスを超えるユーザーからの支持を受けたものとなったかどうかの強力な指標である。現時点ではHMVと組んで限定CDを発売するというのにとどまっており、リスクをとって単独で商品開発というところまでは行っていない。ここからどこまでゆるゆり人気を伸ばせるか、残りの回の脚本と制作委員会のマーケティング担当の会社の手腕が問われる。

今後の展開



 毎度の事で恐縮だが、重要なことであるので繰り返すと、良い商業コンテンツとは、これによって最大限の収益がライツホルダーにもたらされるコンテンツを言い、最低限として投下資本をきちんと回収でき、さらにどこまでのアップサイドを獲得したかで評価されるべきものである。


 前述のとおり、『ゆるゆり』は、コンテンツそのものとしては、他の日常系の作品に負けず劣らずの「良い作品」である。


 残る問題は、このコンテンツを用いてどこまでの収益拡大が図れるか、すなわち、キャラクターを含むコンテンツ・世界観のマルチユースによる収益拡大戦略の巧拙である。


 当初からヒットした場合を想定してアニメの脚本に収益化の芽を埋め込めているか、ヒットの仕掛けは施されているか、ヒットの芽を捉えてタイミングよく関連商品を展開できる態勢がとられているか、といった点が重要である。


 実務的には、制作委員会の窓口権を誰がコントロールしているか、制作委員会の組合員(出資者)の利害をきちんとまとめきれるような実力のある業者が窓口権者となっているか、といった点が重要だろう。


 残念ながら部外者からはこういった情報は見えてこないため、『ゆるゆり』が、真の意味で「良い商業コンテンツ」たりうるかは、現時点で予測困難というほかない。
(注)アニメの制作委員会である「七森中ごらく部」の組合員(出資者)は非開示のようだが、見る限りポニーキャニオンが入っており一迅社自身は入っていないように見える。


 コンテンツそのもののポテンシャルは高い本作品であるからこそ、ブレイクの兆しが見えている今、コンテンツホルダーによる適切な収益化策の施行が強く期待される。