「迷い猫オーバーラン!」の迷走(10巻感想) その1



8月25日、集英社スーパーダッシュ文庫より「迷い猫オーバーラン!」10巻が発売された。
 同シリーズは2008年10月に第1巻が発売されて以降、イラストレーター・ノベルゲーム原画家ぺこ氏が挿絵を担当してきたが、本巻からこの体制が大きく変更されることとなった。


イラストレーター、ぺこ氏について



 ぺこ氏は、「波の間に間に 〜さざなみ診療所〜」「秋のうららの 〜あかね色商店街〜」、「こなゆきふるり 〜柚子原町カーリング部〜」など、有限会社アルケミーのブランド「ブルームハンドル」の看板絵師と言ってよい絵師である。


ブルームハンドルの作品は、絵が美しいにも関わらずシナリオが残念という特徴を持ち、ノベルゲーム業界でも実に惜しい立ち位置のレーベルの一つである。すなわち、ブルームハンドルの作品は、多くがぺこ氏の「絵買い」によって売れていると見られる。同様の立ち位置のレーベルとしては、いとうのいぢ女史を抱えつつシナリオがぱっとしないため残念な位置にとどまっている、株式会社ソフパルのブランド「ユニゾンシフト」が挙げられるだろう。


 ぺこ氏は、いとうのいぢ氏と同様、ノベルゲーム業界におけるキャラデザを含む原画の世界での実力者であり、同人系のちょっとした挿絵画家とは異なる。本記事を読み進めるにあたっては、ぺこ氏の業界における以上の立ち位置を理解しておいていただく必要がある。



ぺこ氏の降板と各巻イラストレーター交代制への移行



 8月4日、集英社はウェブサイトで、「迷い猫オーバーラン!」からのぺこ氏の降板と、毎巻ごとにイラストレーターが変更する「各巻イラストレーター制」なる体制に移行する旨を公表した。
 そこでは同時に、第10巻の挿絵は「とらドラ!」の挿絵を担当したイラストレーターのヤス氏が、第11巻の挿絵は「ぱにぽに」の作者である漫画家の氷川へきる氏が、それぞれ担当することになることが告知された。


 公式発表によると、各巻イラストレーター制なるものへの移行は、半分が話題づくりのため、半分が大人の事情であるとされている。
 「各巻イラストレーター制への移行」は2つの要素に分けて考えることができる。1つはぺこ氏の降板、もう1つは10巻以降のイラストレーターが毎回変更する、という要素である。単に「イラストレーター変更」として10巻以降のイラストレーターを誰かに交代するという選択肢をとることもできたにもかかわらず、それをしなかった理由は「話題づくりのため」であろうから、もう1つのぺこ氏が降板を余儀なくされた理由が「大人の事情」にあることになる。


「迷い猫オーバーラン!」の迷走 その2」につづく