さくら荘のペットな彼女 6巻 感想



アスキー・メディアワークスより12月10日発売「さくら荘のペットな彼女(6)」を読了。





さくら荘の取り壊しと美咲・仁の卒業をめぐるエピソードに、七海と空太の挫折を通じた急接近とを織りまぜて、泣きを取りに来る巻でした。


オンボロの寮を舞台にする時点で取り壊し話が出てくることは明らかでしたので、それはいいのですが、そろそろ本作もネタが尽きてきた頃なので、この辺で仁と美咲を寮から追い出して新入生をさくら荘に入れないと新しいエピソードが出てこないということなのでしょう。そこでまた空太がフラグを立ててもう一騒動おこる、と。もう読むのを辞めてしまった「迷い猫オーバーラン!」にも見られた、よくある展開が今後も続いていくと見られます。


このように本作品は、プロットといい設定といいベタであるものの、夢に向かって突き進む高校生の挫折と葛藤といったところを正面から書こうという気概が感じられる点が好印象で、そのあたりが、テンポの良い会話の掛け合いとあいまって、読者をひきつけている要因だと思われます。


そういった心の葛藤を描く点が本作品の特徴であればこそ、空太が立てたフラグも、その辺のノベルゲームのようなご都合主義ではなく、正面からの回収に向けて書ききって欲しいところです。誰がそんな修羅場を見たいのか、という商業的なサイドからの疑問も出てくるでしょうけれども、本作品で取ったスタンスを尻すぼみに終わらせないためには、読者におもねずに、ましろと七海の空太をめぐる修羅場をちゃんと書ききる必要があります。これは、境遇と才能の面で「持てる者」であるましろと、「持たざる者」である七海と空太、こうようなアンバランスな構造の中で、勝ち組であるましろを更に勝たせるという予定調和的な結末を、どうやって納得性を持って書ききるか、ということです。七海に声優となる夢を叶える道筋をつけてやって、誰も完全な敗者にならないようなしつらえとする、というのが、通常のこの手の商業作品の常套手段ですが、これを打ち破るような結末が見てみたいですね。


なお、公式HPによると、本作品はドラマCDコースに入ったとのこと、コミックスの発売など、他メディア展開の布石を着々と打っているという状態と見られます。最終的にどこまでの展開が可能かについて、管理人はそれほど楽観視していませんが、つまらない作品ではないので、あと2巻ほど出たところで次のメディア展開の芽が出てくるかもしれません。