規制強化

 バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会なる研究会が昨年末に最終報告書を出しました。この研究会は警察庁の私的研究会で、要するに警察庁の意向がここに掲載されています。この報告書はいわゆる18禁コミックやゲームのうち子どもを性行為の対象とするものについて、以下のような記載をしています。
 「言うまでもなく、同意があっても13歳未満の者と性行為をすれば強姦罪に問われるものであり、また、18歳未満の者に対する性行為は都道府県の青少年保護育成条例の淫行処罰規定に該当しうるものである。表現の自由は最大限尊重されるべきであるが、18歳未満と受け取れる子どものみならず、13歳未満と受け取れる子どもまでも性欲の対象とし、犯罪行為を肯定するコミック等が社会に広まることは憂慮すべき事態と言わねばならない。加えて、このようなコミック等の状況を多くの大人が認識しておらず、これらが社会にもたらす弊害について十分議論することもなされていない。リアリティの世界で「子どもを性の対象としてはならない」という誰もが認める規範を揺るがしかねない現状に、大人社会は子どもを守るという観点で、もっと敏感に対応していくべきものと考える。」
 そして、このような事態に対する対応策の一つとして「(2)子どもを性行為等の対象とするコミック等が社会に与える悪影響についての調査・研究の蓄積とともに、これらへの対応の在り方について専門的な検討を進めるべきである。」という提言をしています。要するにこれらを規制せよ、ということです。
 現実世界で子どもを性行為等の対象とすることに対しては、子どもの保護の観点から、パターナリスティックな規制が必要であることはいうまでもありません。しかしながら、現実世界ではなく、単にコミック等で描かれたに過ぎないこうした描写をも制限しようというのは、内容に注目した表現の自由に対する重大な制約となる反面、これによって保護される法益は非常にあいまいです(現実の子どもに対する直接の害悪がなく、このようなコミック等が出回ることにより、現実と虚構の区別が付かなくなる輩が出てくるかもしれず、仮にそうなった場合には現実の子どもに対する害悪が生じるかもしれない、というロジックですが、現実の害悪の発生とは相当にリモートであるといわざるを得ません。)。
 米国の裁判例でも、コミックやアニメに対してまで規制を及ぼすことは表現の自由を過度に侵害するものであり違憲だとの判示がなされているところでもあります。
 したがって、この手の問題は、基本的にはレーティング等の手法を通じた業界団体の審査制度を通じて解決すべき問題であるといえます。
 この点、上記報告書は新たに、これらのレーティングを経ない同人コミックや同人ゲームが、インターネットを利用することにより販路が飛躍的に拡大しているという点を問題視しています。同人の人たちは、レーティングを経てメジャー書籍・ゲームとして売っていくことをはなから求めない人たちなので、従来的な規制の仕方で対処できないというのはその通りであります。けれどもこれを規制して同人活動を何らかの形で違法化するとすると、一体どのような規制になるのか、想像するとこれはこれで恐ろしい世界であるように思います。
 ちなみに、問題のあるものの例として「高校生の男子が小学生の女児と結婚し、同女やその付き人である中学生の女子と様々な場面において性行為等を繰り返すようなストーリーのゲーム」というのがありますが、これは私立さくらんぼ小学校が出している「奥さまは○学生」のことでしょうかね。