2011年7月発売のゲームについて
以前もどこかで書いたが、ノベルゲームに初めて触れてから20年ほど経つ。
もちろん、その期間中、常に一定のペースでプレイをしていたわけではなく、国内外の様々な入学試験、卒業試験、資格試験をくぐり抜け、大案件の修羅場を乗り越える中で、ゲームを封印していた時期も少なくない。
現在も、仕事がますます面白くかつ忙しくなる中、仕事に必要な勉強時間を捻出し、さらにファミリーデューティーを抱えながら、ノベルゲームに割くことができる時間は、週に良いとこ数時間というのが関の山だろう。
したがって、ハズレゲームをプレイするのは極力回避し、よいシナリオ、よい原画、よい声優の三要素を総合的に勘案して、時間を使うに値するゲームのみをプレイすることを心がけている。
ハズレゲームを引かないための一般的な手段の一つが、体験版をプレイすることであろう。最近はどこのゲーム会社も、体験版までの部分に相当力を注いでいると聞く。
しかし、体験版をプレイすることは、僕にとってはハズレを引かない手段として機能しない。
なぜなら、第一に、近時のボリューミーな体験版をプレイすること自体がすでに、相当の時間のロスになるからだ。体験版をプレイする時間があったら、面白いゲームの本編をプレイしたい。
第二に、近時は、体験版でユーザを釣って、本編は体験版を超えることなく終わってしまう、という、いわば体験版詐欺商法も跋扈していると聞くからだ。ユーザとの長期的な信頼関係を築くことがブランドの果たす使命である、というブランド論のイロハをも踏まえない暴挙に出る企業が多い業界とはいえ、憂うべきことである。
忙しい人のゲームの選別法
体験版をプレイせずにどうやってプレイすべきゲームを選ぶのか、といえば、これまでのゲーム経験をフル活用した上で、プレイ済みの人の意見を最大限活用することに尽きる。
ゲームはシナリオがダメだと他が良くても話にならないので、気に入ったシナリオライターの動向は押さえておく。その上で、原画と声優は各ブランドのサイトで確認すれば、おおよそのプレイすべきゲームの絞り込みはできる。
ポイントは、この段階で予約などという早まったことはしないことである。
原画や声優は、誰が担当するかがわかれば、概ね一定のクオリティが保証されるのに対し、シナリオは水ものである。いくらシナリオ構成と文体に定評がある健速氏でも、やっちまう場合があるのである。
もちろん、早期予約者には予約特典がつき、世の中にはこの予約特典欲しさにシナリオの地雷リスクを果敢に取りに行く猛者がいることは承知している。こうした人達が社会的にも微妙な位置に置かれたこの業界に対する資金供給源として果たしている役割の大きさを思うと、こうした人達の懐の深さ、ディープポケットぶりには業界を挙げて感謝状を贈るに値する貢献であることは認めるにやぶさかではない。ないのではあるが、1ユーザーとして最も効率的にゲームを楽しもうと考えた場合には、予約は決して最適戦略ではない。
したがって、こうして予めゲームをウォッチしておきつつ予約を回避し、これが発売されてしばらく経ってから、実際にプレイした人のプレイ感想を頼りに購入すべきか否かを判断するのが吉である。
プレイした人の感想を渉猟する際の留意点は、ただ闇雲にブログを検索してはならないということである。プレイ済みの人たちの感想は、ネタバレを含むことが多く、これを読んでしまったらプレイの楽しみが9割も減ってしまう。
そうではなく、自分と同じ好みの傾向を持ったブログの書き手で、ネタバラシをコントロールしている人を複数予め見つけておき、その人達の評価に従って最終的な購入の是非を判断するのである。これであれば、相当程度の確率で、地雷シナリオを回避することができる。
その際、批評空間も十分に参考になることを付言しておきたい。同サイトは、統計学についてひと通りの知識を持った者が管理人となっていると見え、そのゲームが買うに値するかどうかについて、統計的な見地から検討するのに有効である。この場合、特定の数値のみを頼りに判断するのではなく、自分と同様の評価を過去に下しているユーザーのつけた点数や感想につき重み付けをしながら、複合的に読み解くことを忘れてはならない。
2011年7月発売の作品
そうした見地から、2011年7月に発売された作品の中で、プレイするに値すると判断した作品は、以下の2作品である。
1.株式会社ウィルプラスがMephistoブランドで発売する『天使の羽根を踏まないでっ』
2.フェイバリット社の『いろとりどりのセカイ』
1.『天使の羽根を踏まないでっ』についてはシナリオライターの朱門優氏への信頼によるところが大きい。同氏は、シナリオで色々なことを考えすぎてしまい、徒に複雑なシナリオとなってしまう恨みがあるが、それが逆に一定のファン層を獲得する要因ともなっているシナリオライターである。ひたすら独特かつ複雑怪奇な楽曲を世に送り出し続けるマイナーミュージシャンが一定のファン層に支えられて存在しているが、あの趣に近い。『いつか、届く、あの空に。』で衝撃を受け、次の『きっと、澄みわたる朝色よりも』でがっかりさせられた同氏のシナリオだが、信頼できるサイトの評価を見ると、今回は大丈夫そうに見える。
さらに、音楽を手がけているのが、Tynwald Musicレーベルの樋口秀樹氏である点も見逃せない。同氏の楽曲はパレットの諸作品を含め、名曲が多く、WHITELIPSの少し外れ気味だが透明な歌声とともに、これまで贔屓にしてきた。『きっと、澄みわたる朝色よりも』では正直振るわなかったが、こちらも今回は大丈夫だろうと判断している。
2.『いろとりどりのセカイ』については、まず前作『星空のメモリア』に引き続き、まいたもとい杏子御津を起用しているのが大きい。この声優は、ロロナ的な元気お馬鹿キャラとサーニャ的な不思議静かキャラの2つを主に演じ分けるが、管理人が好むのは後者である。星メモのメアは「バカバカ」セリフで正直うざいところもあったが、今回は妹キャラだしきっと大丈夫だろうと判断した。
シナリオとしては、正直星メモは許容範囲ぎりぎりの線だった。今回も、ルートによって相当ばらつきもあるようだが、星メモレベルは確保しているように見受けられる。
原画は同じ司田カズヒロ氏であるが、この人は二種類の絵を書く人との印象を持っている。個人的には星メモのこさめや明日歩のようなクセのない絵が好みなのだが、今回は塗りを含め、もう一種類の方の絵になっているようだ。なお、今回の作品は原画家が複数になっていることが星メモの絵柄との相違の原因と見る向きもあるが、司田氏の元々の絵柄や同氏が当社で占める地位に照らせば、複数原画家となったことが今回の絵柄の変更の直接的な原因ではないと見ている。
以上の分析のもと、さていずれをプレイすべきか、それが問題である。