美少女ゲームアワード

 第一回美少女ゲームアワードの表彰式が17日に行われたとのこと。第一回の大賞は戯画『この青空に約束を』でした。同作品は大賞のほか、シナリオ賞、主題歌賞、純愛系作品賞、そしてユーザー支持賞を獲得し、2006年の文句なしのナンバー1に輝きました。
  
 美少女ゲームアワードは、これを後援するソフ倫が指摘するように「美少女ゲーム業界版のアカデミー賞のようなもの」となるべく創設されたもので、その目的は、映画における本家アカデミー賞と同様、業界の振興にあります。そこで、このアワードの設定が、今後この業界に与えるかもしれない影響について、考えてみたいと思います。
 
 まず、美少女ゲームアワードの受賞ゲームが、受賞によりさらにセールスに好影響を与える、というアワード設定の重要な動機の一つを達成するという結果を生むことになるかどうか、今後注目する必要があります。今回は第一回なので、受賞が売れ行きにどのように影響するのか、各ソフト会社はかなりの関心を持って見ているのではないかと思います。予測ですが、おそらく受賞作品は、各ゲームショップの店頭で、受賞作品であることを告知され、プロモーションがかけられると思われます。これは、オンライン市場でも広がっていくでしょう。そして、そのプロモーションに反応する消費者としては、どのゲームを買ったらよいのか分からない美少女ゲームの入門者、それから発売日が重なった等の理由で受賞作品を買い逃してそのままになっていた愛好者が考えられます。いずれにせよ、他のゲームよりも客観的に優れていることが示されているわけで、受賞作品の売れ行きに好影響が出るのは間違いないでしょう。
 
 そうすると、受賞作品を作ったソフト会社は、受賞後にさらに収益機会が発生することになります。そうなると今度はソフト会社サイドが、受賞を狙って作品作りをするようになります。何年か続けられていくうちに、映画の場合と同様、受賞のためにはどのタイミングでリリースすればよいか、受賞しやすい作品の特徴などが明らかになってくるでしょう。このことが美少女ゲーム業界に与える影響は、なかなか読みきれないように思います。映画の場合のアナロジーが可能であるならば、受賞後の売れ行きを織り込んだ大作が出てくるかもしれません。また、大賞狙いの作品が似たり寄ったりということになるかもしれません。賞の設定によってかえって作品の魅力が失われた、ということがないようにするためには「美少女ゲームアワード審査会」が公正な審査をすることは当然のこと、「美少女ゲームアワード実行委員会」が適切な賞のカテゴリを提供することが必要です。現在設定されているカテゴリは、大賞、シナリオ賞、主題歌賞、BGM賞、グラフィック賞、ニュージャンル賞、ベストキャラクター賞、純愛系作品賞、ハード系作品賞、フェチ系作品賞、プログラム賞、プロモーション賞、ユーザ支持賞、メディア支持賞となっています。賞を狙った作品づくりという傾向が今後強まるとすると、カテゴリに合致しない作品がリリースされる機会が減ってしまい、これは業界の進歩を妨げます。そのようなことのないように、カテゴリの見直しを適宜行っていくことが必要でしょう。
 
 色々と書きましたが、個人的には、賞の設定とその適切な運用は、この業界の認知度を高めることにつながり、市場規模の拡大にも貢献するのではないかと思います。動くお金の額が大きくなるということになれば、成功すればビジネスとしての旨味も高まるはずで、より良質な作品を出していくインセンティブが高まっていくことにつながります。全体的な質の向上は、いわゆる全年齢版を通じてファンの裾野を拡大することにもつながります。

 他方、アワードの設定は、客観的な作品の良し悪しを決めていくという性質上、これは見方を変えれば業界に「勝者」を作り出すことを意味します。ここにいう勝者は、賞の受賞という意味での勝者にとどまらず、作品の売り上げ増を通じた経済的な勝者であることは、上述したとおりです。このような意味での勝者が発生するということは、当然その裏には敗者が発生する可能性を秘めています。ファンが増えている間は、業界全体のパイが増えているので全体的にその恩恵を受けるかもしれませんが、ある程度まで進行すればファンの人数が頭打ちになることは容易に想像できます。ファンが増えない中でのソフト会社の戦いはゼロ・サムゲームであり、これは一般に体力勝負になります。既に一般のゲーム業界では、経済的な勝者による敗者の撃退を経験し、寡占化が進んできているところです。一般のゲーム業界でのこの現象は、ゲームの高品質化による開発費負担の高騰が大きな理由として掲げられていますが、アワードの設定が、作品の高品質化を結果するとすれば、それによる開発費負担の高騰は避けて通れず、美少女ゲーム業界でも一般ゲームと同様の再編が将来的に起こるのかもしれません。

 ちなみに、良作ベストは、今までは各サイトの管理人たちが開催しており、シナリオがよくできている過去の良作を選んで試していた人たちにとって、とても参考になるものだったのですが、ソフ倫が後援し雑誌編集長などの業界サイドの人たちが主導する、ある意味オーソリティを持った今回のアワードが設定されたことにより、各サイトによるランキングが従前と同じように行われることになるのかどうかも、興味深いトピックです。