ニューヨークコミックコンベンション

 2月の23日から25日まで、NYマンハッタンにあるジャビットコンベンションセンターというところでコミックコンベンションが開催されていました。全くの別件で25日にマンハッタンに来ていたので、様子をのぞいてきました。

 日本に住んでいた頃にもコミケには行ったことがなく、日米を比較して何か言えないのが残念ですが、アメリ東海岸でのコミック事情をお伝えできればと思います。


 



1.米国における"Manga"事情


 まず、ここ米国での日本のMangaの浸透度ですが、少なくとも過去住んでいたNY、そして現在住んでいるカリフォルニア州を見る限り、本屋には一応コミックの棚があり、最大手とされるViz Mediaや最近急速に存在感を高めてきているTOKYOPOPやDel Reyといった出版社から出されている日本のマンガの英訳版が売られています。Barnes and NobleやBordersといった大手の本屋に寄ったことがある人はご存知かと思いますが、こちらの本屋は、基本的に立ち読みが自由です。というかむしろ皆座り読みしてます。会計もしていない本を、併設されたカフェで読むということが普通に許されているという環境です。日本でこんな環境だったら、本屋はマンガ好きな学生の溜まり場として大いに盛り上がるんでしょうが、こちらでは、少数のOtakuを自称する少年少女が数人、棚の近くでマンガを座り読みしている姿を見かけるだけです。国務大臣が移動中、黒塗りの車の中で週刊マンガ雑誌を読んだり、成田空港のVIP待合室でローゼンメイデンを読んだりするほどマンガが市民権を得ているわが国とは異なり、MangaはどちらかというとまだOtakuの読むもの、という扱いを受けているといえそうです(PokemonやNaruto等一部市民権を得ているものもありますが)。


日本のマンガブームに乗って、各社が売れそうなマンガを巡って外国での販売権獲得のためにしのぎを削っている状況ですが、Viz Mediaは親会社の小学館(サンデー系)と集英社(ジャンプ系)に、Del Reyは講談社(マガジン系)に強く、TOKYOPOPは外国人が設立した独立系(日本のファンドや三菱商事といった商社から資金が入ってますが)であることから、様々なところから数多くの出版権を獲得している、というのが、僕から見た素人的な印象です。版権を抑えたものの中からポケモンのようなお化けヒット作が出れば、ロイヤリティ収入で莫大な額の収入が入るというビジネスモデルであることから、各社とも次なるポケモンがどこにいるのか、まさにポケモンハンターのように目を皿にして市場動向をにらみつつキャラクタ、作品探しをしているといったところでしょうか。

 マンガの米国での普及状況やその歴史については、Viz Mediaの創業者である堀淵清治氏の書いた『萌えるアメリカ』に詳しく書かれています。同書は、単に堀淵氏の経歴を書いただけの本ではなく、米国におけるマンガの出版部数や業界の状況など、経営者ならではの観点から米国のマンガ市場を詳細に分析しており、ビジネス的な観点からマンガというものを眺めようという人には格好の参考書といえると思います。


萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか

萌えるアメリカ 米国人はいかにしてMANGAを読むようになったか




2. コミコンに潜入!


 話が脱線しましたが、NYコミコンです。入り口を入るとチケット売り場があり、チケットを購入して入り口に並びます。開場から1時間ほど過ぎて到着したのですが、列は会場の外を出てかなりの長さになっていました。




 入り口を入ると、中は非常に盛況の様子。



 会場のすぐ目の前には、全身アニメが描かれた自動車が。「米国版痛車イタ車)!」と思わず心の中で叫んでしまう瞬間です。


   

 

 会場は、入り口には先ほど触れたViz Mediaが大きなブースを構えています。売っているのは市販のマンガやDVDなど、アトラクションとして日本でおなじみのプリクラとなにやら投げ入れるNarutoのゲームが。十代の女の子を中心にかなりの盛況を見せていました。



 そしてその奥にはTOKYOPOPがやはり大きなブースを構えており、市販本を売りつつ、何やらぼそぼそとした口調でトークショーのようなものをしています。出版作品数も多く、また韓国マンガの販売等も手広く行っていることから、出版社のブースとしての見栄えはなかなか良かったように思います。ちなみに下の写真の右下の方に一部見えますが、日本の女子高生の格好をした女の子が見えます。もちろんNYの高校生がこんな格好で学校に通っているわけではなく、ある種のコスプレと言えるでしょう。


      



 さらにその奥にはDel Reyのブースがありました。Del Reyはマガジン系に限らず、どちらかといえば日本の萌え路線に追随したラインナップで米国市場を攻めています。米国のOtakuと呼ばれている人たちのブログを見てみると分かりますが、YouTubeやらLocation Freeやらのおかげで、最近ではほとんどタイムラグなく日本のアニメを米国でチェックすることができます。ハルヒなども彼らは当然チェック済みですし、いわゆる美少女ゲームのアニメ化に関する情報についても非常に早い段階で彼らのブログ上に流布しています。このような状況を見ると、Del Reyの戦略もなかなか良い線をついているのではないかとも思えますが、例えば今回の会場ではハルヒは見かけなかったことなどを考えると、この路線は少なくとも現在のところでは、一部のコアなOtaku層をつかんでいるだけと見るのが妥当そうです。ただ聞くところによると、近時TOKYOPOPラノベの翻訳も始めたとのこと、ハルヒのようなラノベ発のヒット作が米国で出てくるのもそう遠くはないのかもしれません。



 この手のものはどうやら奥にはいれば入るほどコアなジャンルになっていくようで、何だかレンタルビデオ屋のようでありますが、一番奥の隅のブースにはやおい系もありました。よく考えるとこれはむしろアメリカの方が本家かも知れず、実際購入しているアメリカ人も結構いました。




3. どんなマンガを売っているのか



 日本のマンガが売れている、と言っても、日本でヒットするマンガが米国でも当然ヒットするというわけではありません。日米国民の感性の違いというのが厳然として存在するなか、ヒットする作品は当然異なってきます。例えばドラえもんはアジアではヒットするが米国ではさっぱり、という話を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。


 とはいえ、根っからの日本人である僕からは、「アメリカ人が好きそうな日本のマンガ像」というのが本当に良く分かりません。例えば彼らは高橋留美子作品や鳥山明作品は総じて好むようです。それでは北条司CITY HUNTERの人)や原哲夫北斗の拳の人)の作品は好きなのか、というとよく分からず、また筋肉マンやキャプテン翼といったある意味伝説的なマンガがこちらで受け入れられているのか、というとこれもよく分かりません。売っていた本やDVDの写真を少し撮ってきたので、見てみてください。


    


    


 

 見てみてもらえると分かるかと思いますが、ドラゴンボールはいいとして、まず「ねぎま!」はOKのようです。よく見てみるとそのすぐ近くに名作と言われながら一部では鬱ゲーとも呼ばれる「君が望む永遠(君のぞ)」のDVDが見えます。確かに遙の健気さはもしかしたらアメリカ人の心を震わせるのかも、と思いもします。個人的にはマイナー誌だと思っているガンガン連載の「鋼の錬金術師ハガレン)」もアメリカではかなりのヒット作だとか。よく分からないのが「苺ましまろ」。これ浜松でしょ、知ってる浜松って?とも思うし、このシュールさってついていけるの?とも思ってしまいます。全然分からないのが「クロマティ高校」。こんな微妙なツボをついたシュールネタ、アメリカ人に分かるんかいな、という思いが消せません。講談社漫画賞をとったっていうだけで勢いで翻訳してしまったのではないかとさえ思ってしまいます。もしこの笑いについていけるアメリカ人がいるなら、きっと「絶望先生」もアメリカで売れるんじゃないか、という幻想すらも抱いてしまいます。



4.感想

 
 日本発のコンテンツが世界中で売れている、といったニュースは日本でもよく目にするのではないかと思います。また、コンテンツ産業を日本の一大輸出産業に、という政治的な動きも高まっています。支持率が急降下している現首相に変わり、ローゼンメイデン大臣が首相になることがあれば、この動きはさらに加速するかもしれません。


 個人的には、コンテンツの輸出産業化という発想には賛成しています。一つには、マンガというコンテンツを通じて日本の文化を輸出することは、他国の、特に子どもに対する日本という国への見方や潜在意識下での親日度を高め、将来的に日本の外交を助け、その国際的な地位を高めることにつながります。これはアメリカのハリウッドを中心とした映画産業の興隆が、どれだけ非米国人に対して親米的な意識を生み出したかを考えれば明らかでしょう。現に、台湾や香港の僕と同世代の人たちは、かなり早い段階から日本のマンガに親しんでおり、彼らの日本、そして日本人に対する親愛の情に触れたことがある人であれば、マンガが生み出す文化力の日本に与えるメリットの大きさは絶大だということに気づいていると思います。


 このような国益的な観点を抜きにしても、日本のマンガを中心とした娯楽コンテンツは、海外に普及されてよい普遍的な価値観を持っているものが多いように思います。例えば少年誌と呼ばれる分野のマンガは、愛情、友情、勇気、誠実、正義、信念、といった人として大切な徳目をテーマとして、これらのテーマを分かりやすいプロットで説得的に描いています。日本のマンガの大きな特徴として、擬音語、コマ割りや背景描写を通じた心理描写といった映像的な手法を駆使することで、二次元でセリフが限られた絵の中に多くの情報を盛り込んでいるという点があると聞いたことがあります。さまざまな表現手法を駆使して描かれた、愛情、友情、勇気、誠実、正義、信念といったテーマについて描かれたマンガは、人の心に時として文章以上の感動を生み、そこに描かれた画と共に人の心に永く残るのではないかと思います。


 コンテンツ産業の注目とは裏腹に、低予算による粗悪なコンテンツの粗製濫造や、低賃金によるコンテンツ制作現場の疲弊といった声が最近聞こえてきます。コンテンツ制作者、単に漫画家や原作者といった人たちだけではなく、これをアニメ化するアニメーターといった人たちがきちんと報われる制度と仕組みの確立のために自分に何ができるか、今一度じっくり考えたいと思っています。