子どもをモデルにしようとする親のインセンティブを奪う

 少女モデルの低年齢化が極端に進んでいるようです。


 直接リンクを貼るのは気が引けるので、実態についてはGIRLNESSさんのサイトを見てみてください。


 こういうものの氾濫に対処する方法としては、もちろん前回のエントリで紹介した児童ポルノ規制法みたいな方法もあるんですが、子どもをこういうところに晒そうとする親のインセンティブを奪うという方法も考えられていいのではないかと思います。

 
 こうした児童(児童ポルノ規制法では児童を「18歳未満の者」と定めてるので、これに従うことにしましょう)がモデルになるにあたっては、通常、何らかの形で親の意思が反映されるわけです。例えば5歳だとか9歳だとかいうモデルは、真の自分の意思でモデルをしているわけではないはずで、そこには親の意思が色濃くあると容易に想像できます。13歳とか15歳とかのモデルについては、自分の意思でやっているのではないか、という反論もあり得ますが、少なくとも法律は、こうした18歳未満の少年少女の意思を、自己責任が問える意思だとは考えていません。そうであるからこそ、本人が承諾して行ったものであろうとなかろうと、こうした少年少女の権利を「保護」するために、児童ポルノが父権的に違法となっているわけです。少なくとも18歳未満の少年少女は、社会の中の様々な行為について親の同意が必要な存在とされているわけで、その意味で、彼ら彼女らの行動は、親の一定の支配下にあるということは、いえると思います。


 では、子どもをモデルにしようとする親は、一体何を考えて子どもをモデルとするのでしょうか。単に我が子を有名人にしたい、というだけではないように思います。つまり、子どもをモデルとして働かせれば、当然これに対して一定の報酬が発生します。この報酬が親にとって子どもをモデルとするインセンティブの一つとなっていることは想像に難くありません。


 親による子からの搾取を防止するため、ハリウッドを擁するカリフォルニア州には、Child Actor's Billまたの名をCoogan Actと呼ぶ法律があります。この法律は、簡単に言うと、子役の報酬はその子どものために設定した信託に払い込み、子どもが成人になったら払い出される仕組みにしなさい、ということを定めています。この法律は1939年と古い法律ですが、当時の名子役Jackie Cooganが子役時代に稼いだお金が、親によってその大半を費消されてしまったことを発端に成立したものです。この法律でカバーされる未成年者の範囲は、成立後年とともに拡大しています。

 
 児童ポルノの販売行為を罰したり、単純所持を罰したりというのは、その作品が「児童ポルノ」に該当するのか、というところでどうしても曖昧な領域が出てきます。勢い、業者や子どもをこうした業界に送り出す親は、合法ぎりぎりの線を狙って作品を作り続けるでしょう。こうした事態が未成年者の権利の保護にどの程度つながってくるのか、疑問がないわけではありません。また、こうした表現の内容に着目した制限は常に、憲法によって保障されている最も重要な人権ともいえる表現の自由との緊張関係を孕みます。


 このような表現内容に着目した規制に比べ、子どもの意思決定を支配、またはこれに深く関与する親の側の、子どもをモデルなりにしようとするインセンティブを奪ってしまうというCoogan Actの方策は、作品の製作側の自由を過度に奪わないという点で、優れているように思います。親のインセンティブを奪うだけでは十分に規制しきれないという面ももちろんあるでしょうから、現実的な手立てとしては、おそらくは両制度を併用するというのが妥当だろうとは思いますが。


 ちなみに、このような制度を作っても製作サイドは黙って親に金を払ってしまうのではないか、という懸念に対しては、もちろんこのような支払いを違法化して、違反したものに対して罰則で臨むべきだ、と答えることになるでしょう。なお、設定した信託の信託受託者が、勝手に親に払いだしてしまうのではないか、という懸念は、基本的には杞憂と考えてよいと思います。信託受託者の受託者責任は非常に重く、信託の本旨に反する信託財産の処分は、信託受託者自身の不利益となりますので、敢えてそのような不利益をこうむる危険を冒してまで親に支払いを行う信託受託者はないだろうと考えてよいと思われるからです。


 子役の供給を減らす可能性のある立法なので、非常に強い政治力を持っているマスコミを相手としなければならない点が厄介ですが、「子どもを保護する」という大義以上に強力なこの制度に反対する大義ないし理屈は、さすがのマスコミでもなかなか思いつかないのではないでしょうか。